卵の緒/瀬尾まいこ

卵の緒卵の緒/瀬尾まいこ
捨て子だと思っている小学校4年生の育生、妙ちきりんな母親、そのとぼけたボーイフレンド、不登校の同級生、血の繋がらない親子を軸に、「家族」を軽やかなタッチで描く。坊ちゃん文学賞大賞受賞作に書き下ろし1編を収録。
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文句なく、おもしろいです。表題作の「卵の緒」は、主人公の育生が小学生ということもあって、感情移入することができませんでしたが、帯に書かれている母さんの言葉「誰よりもあなたが好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛してるの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?それで十分でしょ」、これに尽きます。これだけを読んで、血の繋がらない親子の話というと、暗いイメージが思い浮かびますが、まったくそんなことはなく、コミカルでテンポよく、重たいテーマを軽やかに描いてます。
そして、もう一つの書き下ろしの中編「7’sblood」が泣けました。こちらは、女子高生の「七子」と腹違いの小学生「七生」とのお話。はじめはお互いの距離がつかめずぎくしゃくしていたものの、徐々に親密になっていくのですが、最後には涙の結末が待っていました。もちろん、ただ悲しいのではなく、さわやかですこやかで、抜群の読後感です。
それにしても、瀬尾まいこ、今まで読んだ小説すべてが一貫して「家族」について描かれています。まったく説教くさくなく、押し付けがましくなく、家族の絆の大切さを伝えてきます。そして、何より、小説が面白い。これは、今の時代、特に日本において、とても貴重なことのように思えます。
で、ちょっと気になるのが、すべての小説で主人公に近い存在の人が死んでしまいます。これは、どうかなぁ。「死」はセンセーショナルな事ですが、今度は「死」なくして読ませてくれるものを期待したいなぁ。
20年位前にこの小説を読んでいたら自分はどう思っただろう、ちょっとはましな人間になっていたかもな、なんて。

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